「今日は狩りに行かれるのに、最適な日です」
にこにこ笑ってお見送りは完了だ。
夕刻前に濡れ鼠となった、ロウニアの狩一行を出迎えれば良いだろう。
そう油断していた。
・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・
地主様から、何とも言われぬお顔をされた。
驚いたように目を見張ってから、あろうことか頬をさっと朱に染めたのだ。
それを見せたのも一瞬の出来事だった。
すぐさま彼は、自身の手で目元を覆ってしまった。
それから何やら呻くように早口で言い放っている。
古語なのか、呪文なのかと判別できず困った。
何を言っているのか解らない。
そもそもよく聞き取れなかった。
そこで初めて、今日の彼がいつもと何か違うという事に気がついた。
この違和感は何だろうか?
首を捻る。
その違和感の原因を探ろうと、彼を見つめ上げる。
よくよく観察してやろうという、そのつもりで。
「今日はこれから天候が崩れると見ていたが、魔女の娘が言うのなら確かだろう」
馬上であっても彼の動きは素早かった。
そして力強い。
勢い良く馬から飛び降りて、目の前に着地した彼を見上げるよりも早く、つま先が浮いている有様だった。
両脇をすくい上げられ、あっという間に馬に乗せられてしまう。
視線の高さと不安定さに身体が傾く。
それも短い間の事で、素早く跨った地主様に支えられる。
胴回りを地主様の腕に支えられ、何とも言えない居心地の悪さを味わった。
抗議の意味も込めて、回された彼の腕を引き剥がそうと両手を掛けた。
ビクともしない。
どうにか身体を捻って、彼の様子を窺おうと見上げた。
困った。
あんまり身体を捻ると、地主様に思い切り身体を押し付けてしまう。
後ろの方からリディアンナ様の叫びが聞こえてきた。
「叔父様ったらズルイ! 抜け駆けするなんて!!」
カルヴィナと森に行くのは、わたくしよ―――!
