大地主と大魔女の娘



 
「今日は狩りに行かれるのに、最適な日です」

 にこにこ笑ってお見送りは完了だ。

 夕刻前に濡れ鼠となった、ロウニアの狩一行を出迎えれば良いだろう。

 そう油断していた。

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 地主様から、何とも言われぬお顔をされた。

 驚いたように目を見張ってから、あろうことか頬をさっと朱に染めたのだ。

 それを見せたのも一瞬の出来事だった。

 すぐさま彼は、自身の手で目元を覆ってしまった。

 それから何やら呻くように早口で言い放っている。


 古語なのか、呪文なのかと判別できず困った。

 何を言っているのか解らない。
 
そもそもよく聞き取れなかった。

 そこで初めて、今日の彼がいつもと何か違うという事に気がついた。

 この違和感は何だろうか?

 首を捻る。

 その違和感の原因を探ろうと、彼を見つめ上げる。

 よくよく観察してやろうという、そのつもりで。

「今日はこれから天候が崩れると見ていたが、魔女の娘が言うのなら確かだろう」

 馬上であっても彼の動きは素早かった。

 そして力強い。

 勢い良く馬から飛び降りて、目の前に着地した彼を見上げるよりも早く、つま先が浮いている有様だった。

 両脇をすくい上げられ、あっという間に馬に乗せられてしまう。

 視線の高さと不安定さに身体が傾く。

 それも短い間の事で、素早く跨った地主様に支えられる。


 胴回りを地主様の腕に支えられ、何とも言えない居心地の悪さを味わった。

 抗議の意味も込めて、回された彼の腕を引き剥がそうと両手を掛けた。


 ビクともしない。

 どうにか身体を捻って、彼の様子を窺おうと見上げた。


 困った。


 あんまり身体を捻ると、地主様に思い切り身体を押し付けてしまう。

 後ろの方からリディアンナ様の叫びが聞こえてきた。


「叔父様ったらズルイ! 抜け駆けするなんて!!」


 カルヴィナと森に行くのは、わたくしよ―――!