今日も出てはならないだろう。
だったら誰が森に行こうが私の関与するところではない。
正直、あの森を吹き抜ける心地よい風や木漏れ日が懐かしくて堪らなかった。
それと同時に犬に吠え立てられながら追われるであろう、ウサギや鹿の事を思った。
まだ、自分の半分はあのまま悪夢の中にいるようで、身体も気持も重い。
掛け布がずり落ちたので、そのまま自分もずるずると寝台から落ちるように降りた。
いったん、寝台のへりに寄りかかるようにしてから、力を入れて両腕で寝台を押すように突っぱねる。
そうじゃないと起き上がれないのだ。
もたもたと寝間着を脱いでいると、扉を叩く音がした。
「はい」と答える。
着替えている最中だが気にしない。
別に裸なわけじゃないし、下着姿はもう嫌というほど晒している。
今更だ。
きっと侍女のお姉さんだと思って、寝台にもたれて待っていた。
なかなか扉が開け放たれないので、もう一度「はい」と返事をしてみた。
「仕度は済んだのか?」
扉越しに聞こえてきた声は、地主様のものだった。
「今、着替えているところです」
「早く済ませろ。一人なのか?」
「はい」
「侍女はどうした?」
「わかりません、地主様」
きっと他に忙しいのだと思う。
黙っていると扉越しにお姉さんの声もした。
地主様に挨拶をすると、わかりましたと答える声が聞こえた。
朝から何のご用だろうかと思った。
「主が出かける時は見送りに出るのが常識だろう」
―――という事らしい。
