大地主と大魔女の娘



 カルヴィナの古語の授業(という名の遊び)を終えたリディアンナが、俺の部屋に挨拶に寄った。

 そこで問い詰めた。


「リディアンナ。何を企んでいた?」

「やはり、叔父様には見抜かれていましたか」

「当たり前だ」

 悪びれる様子も無く、あっさりとリディアンナは白状した。


 カルヴィナによる古語の授業を、森の中で受けたかったのだと。


 絶対に許可しないであろう、俺の目を盗んでの野外授業を決行しようとしたらしい。

(共犯者に姉の名を堂々とあげたが、それ以外の者に付いては口を割らなかった。だが察しは付く。)

 即座に却下したが、それくらいで引くリディではない。

「ねえ、叔父様? 私、カルヴィナと森に行ってみたいわ! いいでしょう?」

「駄目だ」

「どうしてよ! 叔父様のわからずや!」

「リディ。大魔女の娘は俺に仕えさせるために側に置いている。森を支配するには、魔女の力が必要なのだ。この地に豊かな実りを実現し、ロウニア家の安泰のためにも俺はそうする。理解したなら口出しはしないように」


「理解できないから口出ししますわ、叔父様! カルヴィナは魔女なのよ。魔女は森の息吹きを感じなければ、弱ってしまうのよ。そんなのは嫌!」


「リディアンナ」


「叔父様だって本当は気が付いているはずだわ。別に帰してあげられなくても、遊びに行くくらいならいいでしょう?」

「……。」


 黙り込んだ俺に、リディは必死に言い募った。


「カルヴィナの話してくれる森の出来事は、宝物みたいよ。実際に見て感じてみたいわ。ね? 叔父様もご一緒しましょうよ。狩でもピクニックでも何でも良いから。それならいいでしょう?」

「……。」

「決まりね! ありがとう、叔父様!」

 姪っ子はぴょんと跳ね上がると、抱きついてきた。

「何も言っていない」


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 苦笑交じりに呟けば、くすくす笑われた。

 俺の負けである。

 姉にもこの姪にも頭が上がらない。


 仲良くなったカルヴィナのために、あれこれと世話を焼きたがる所などはやはり「姉」なのだと思う。

 諦めた俺に、リディアンナはにっこりと笑いかける。


「ところで! 叔父様にご提案があります。私、きっと叔父様のためにも良い結果をもたらすと思うの。ですから、うんと仰って叔父様」


 それはもう頷けという命令に等しい。