「乗り合い所はあちらのようですので、それでは失礼します」
「!?」
そう告げられた。
思わず耳を疑った。
自然、表情も険しくなってしまったようだ。
カルヴィナは泣き出す一歩手前で、どうにか踏み止まっているようだ。
蒼白な顔色の中、噛み締めた唇だけが嫌に赤い。
「おまえは今、何と言った?」
けして責めたつもりなどなかったのだが、尋ね返した声は自分でも驚くほど鋭かった。
「え? 乗り合い所はあちらです?」
「だからなぜそうなる!」
「地主様の、お手をかける訳にはいかないからです。私は、馬に乗れません。ですから、すぐそこの乗り合い馬車に乗ろうと思います。ええと、乗り合い馬車、ガジルール港。出発は四刻ごと、料金、850・ロート」
どうにか堪えた様子で、カルヴィナが乗り合い所の看板を読み上げ始めるのを呆然と聞く。
「来い、カルヴィナ」
これ以上聞きたくなくて、遮った。
カルヴィナは大きく目を見開く。
唇をわななかせ、言葉にならない小さな悲鳴を上げた。
「悪かった。怒ったわけではない。俺を頼るという気はおまえには無いのだな?」
「はい」
何を当たり前の事を言うのかと言わんばかりに、すぐさま頷かれてしまう。
「あの、乗り合い馬車で帰るので地主様は先に行かれて下さい」
「オマエは……。それ以前に金がないのだろう?」
「いえ、あの。少しだけあるのです」
「そういえば船に乗ろうとして乗船券を求めていたな?」
「はい。あの、髪の毛を売ったので少しまとまったお金になりました」
「髪を売ったのか?」
「あの、わずかばかりですがお金を作る事ができましたのでお納めください、地主さま」
精一杯、得意げに微笑む娘に掛ける言葉が見つからなかった。
