騙されてあげる~鬼上司に秘密の恋心~




社員専用の駐車スペースの一番隅にある黒の新型車の前で立ち止まった。


ピッ鍵を開けると、助手席のドアを開けて、わたしをそこに乗せる。


初めて乗る男の人の車は、忘れられない彼の車だった。


彼がエンジンを入れると、映り出される現在の時刻、16:48―――




「な、かもりさん……」

「ん?どうした?辛いか?」



優しい彼の声が車の中に響く。

お願い……お願いだから、そんな優しい声を出さないで……




「まだ5時前……仕事は……?」

「あ、仕事なら大丈夫。店長にお前を送るって言ったら、早めに上がっていいって言われた。だから、心配すんな」



そっか、店長が……でも皆に迷惑かけちゃったな。


ゆっくりと車が発進し、まだ少し明るさの残る街の中に出た。


車がガタンと揺れるたび、頭に激痛が走り思わず顔をしかめる。




「大丈夫か?あと少しで病院着くからな。もう少し我慢しろよ」



ポンポンと優しくわたしの頭を撫でる仲森さんに、涙が出そうになった。


そんなに優しくわたしに触れないで……お願いだから。