「さっきのおばあちゃん、すごく喜んでいたわね」
化粧室から戻り、ポーチを鞄にしまおうと裏にいた時のことだった。
突然、話しかけてきたのは、先程までウチを贔屓にしてくれているお客様と楽しそうにお話をしていた幸さんだった。
「あっ、はい。おばあちゃん、またお孫さんを連れて来てくれるそうです」
「そう。よかったわね。でも、笑顔が足りなかったんじゃない?」
「え、あっ……」
幸さんに言われて、またかと思った。
あの時は、今度こそ笑顔が出来てると思ったんだけど、やっぱり出来てなかったかぁ……
「もっとこう……ニッて。口角上げてごらんなさい」
「ひょっ……いひゃいでふ、はひはん!」
幸さんに両頬を痛いくらいに上げられて、思わず手をバタバタと忙しなく動かした。
一応「痛いです、幸さん!」と言ったつもりだったんだけど、自分でも何を言っているのかさっぱり。
「うーん。どうして笑えないのかしらねぇ」
「これでも笑ってる方ですよ?」
「それでどこが笑ってるのよ。口角下がったままじゃない」



