「田畑さんがウチで一番顧客が多いんだ。彼女を見習うように」
店長にこう言われ、わたしのお手本はあんなに完璧に接客をこなす幸さんになった。
幸さんを見習え、幸さんのように……って言われても。
あんなに輝かしい笑顔を振りまきながら、お客様に対応するなんて、わたしには至難の業かも。
接客業に就いたのだから、それは乗り越えなければならない関門なのだけれど……
わたしには、自分にはそれが出来るとは到底思えない。
出来たとしてもいつになることやら。
でも頑張らないと!と気合を入れるために、頬をパンパンと叩いた。
「全くお前も、いつまで経っても無愛想で仕方のない奴だな。それだと新人の加藤のこと何も言えないぞ」
「はい、以後気を付けます」
「はぁ……これで何度目だよ。副店長なんだから、もっとしっかりしてくれよ。従業員に示しが付かん」
笑顔が固い、愛想がない……そう指摘をされていたのは、わたしだけではなかった。
私以外にもう一人……仲森副店長だ。
確かに他の従業員たちに鬼上司と言われるほど、豹変してしまった彼、仲森さん。
久しぶりに会った彼には昔の面影は全くなく、氷のような冷たい目つき。
仲森さんには“決して笑顔を見せない鬼上司”というレッテルが貼られていた。
わたしも彼も決してあの頃のような笑顔を見せない。



