秀ちゃんは一瞬の躊躇いも見せずに、即答した。
どうして……どうしてなの、秀ちゃん。
「じゃあ、加藤。分からないことがあったら仲森に聞くように」
「……はい」
店長は何処かへ行ってしまったし、他の社員たちは開店の準備に取り掛かっていた。
わたしと秀ちゃんは二人、また気まずい雰囲気に包まれた。
「……よ、よろしくお願いします」
「……あぁ」
大丈夫、わたしと秀ちゃんは上司と部下で、秀ちゃんはわたしの教育係。
ただそれだけなんだ、と頭の中で何度も繰り返し自分に言い聞かせた。
「あのさ、麻……」
「仲森さん、わたしも開店準備手伝ってきますね」
わたしは仲森さんの言葉を遮って、ディスプレイに綺麗に服を飾っている中に手伝いに入っていった。
仲森さん、今わたしのこと“麻菜って”呼ぼうとしたよね……?
どうして……どうしてなの?
わたしはあなたに名前で呼んでもらう資格なんてないんだよ……



