騙されてあげる~鬼上司に秘密の恋心~




そして、マンションに帰ってきたのは、まもなく日が暮れ始めようとしていた時だった。


始めは洋服を買いに行くつもりで街に出たのに、何も買わなかったな。


欲しいなと思ったものはどれも予算をオーバーしていて、見るだけに終わった。


結局買ったのは、帰りに寄ったスーパーで今日の夕飯の食材だけ。


階段を上がっていると、後ろからトントンという軽快なリズムが聞こえてきた。




すると。


「麻菜」



よく知った声が聞こえ、振り返ると……

わたしの後ろを仲森さんが階段を上ってくるのが見えた。





「な、仲森さん……?」


一体こんなところにどうして、と思いながら足が止まる。


彼がわたしと同じ段に来るまで、待っていた。




「仲森さん、どうしてここに?」

「どうしてって……今日からここで暮らすことになったんだ」