騙されてあげる~鬼上司に秘密の恋心~




すぐに先ほどの幸さんとの会話で出た、イタリアンが頭にふと浮かんでしまった。


―――麻菜ちゃんも連れて行ってもらえばいいじゃない。


そんな幸さんの言葉も再び頭の中で流れる。




ダメダメ!そんなこと、絶対にダメなんだから!

必死に幸さんの言葉を頭の中で消そうと、ブンブン頭を振った。




「この前、歓迎会した居酒屋あるだろ?その近くに俺の行きつけの店があるんだ。そこに麻菜を連れて行きたくて」



一瞬ドキッとしてしまった。


わたしを連れていきたい……だなんて、ズルイよ。




「今日は都合が……」



自分の気持ちを押し殺して、こう言うのはやっぱりキツイ。



「そうか……。じゃあ、今から帰るのか?」

「……はい」

「じゃあ、送ってく」

「……えっ?」



私の腕を掴んだ仲森さんは、こちらを一度も見ようとはしなかった。


だから……彼がどんな顔してるのか、分からない。