この一月近くの間、ランシュは復讐らしい事を何もしていない。
 ロイドの神経を逆なでしたり、揺さぶりをかけたりはしたが、からかわれていただけのような気がする。

 そもそもロボットのランシュが、本当に復讐する気があるのかは、甚だ疑問だ。

 ロイドに復讐を宣言したのは、失踪する一ヶ月前のランシュだ。
 つまりロボットのランシュは、その記憶を受け継いでいない。

 免職にされた記憶はあるので、ロイドに恨みは抱いていただろう。
 だが二年の間に、忘れていたと言っていた。

 意識的に記憶データを削除しない限り、ロボットが記憶した事を忘れる事はない。
 実際に忘れたわけではないだろうが、忘れたと言えるほど、ロイドに対する恨みは優先度の低い記憶だったのではないだろうか。

 高性能の人工知能と思考エンジンを搭載しているランシュは、ロイドの言動や心理状態を即座に判断し、怪しまれない最良の対応をしている。

 ランシュの真意が復讐ではないとすると、一体何なのか。

 駆け引きなしで、一度腹を割って話してみようと、ロイドは思った。

 そしてランシュの作り上げた最高傑作の性能を、この目にしっかりと焼き付けておきたかった。