夜明け前



段々と、母様の様子が変わっていくのが分かった。


だけど母様は私達を抱きしめる手を離さなかった。


私もさくも、視界を遮断するように、母様の胸に顔を埋めていたから、なにも見えなかったけど。


翔子先生と佐倉ちゃんがなにか言っていたのを、母様が首を横に振っているのが、僅かな振動で理解できた。


―トクントクン


母様の、鼓動。


母様のお腹の中から聞いていた、一番の子守唄。


どんな時でも、なにか辛いことがあっても、この音を聞けば安心した。


その音が今、止まろうとしている。


もっともっと一緒にいたいよ。


どうしてなのかな。


大人になって仕事をしたら、母様のために家を建てる。車も運転して、母様の足になる。(笑)


そう言ったさくの、


大人になって仕事をしたら、母様を色々な所に旅行に連れて行ってあげたい。料理も覚えて、美味しいものを食べさせてあげたい。


そう言った私の思いは、願いは、どうすればいいんだろう。