夜明け前



コンコン、


「―連れて来ました。入るわよ?」


翔子先生に続いて母様の病室に入って行く。


前を見れば、目元を少し赤くした母様と、あの人がいた。


二人はこちらを見て優しく笑って、


「―さくちゃん、しゅーちゃん、おいで。紹介するわ」


「「…うん」」


母様のベッドに近づけば、当然その人とも近くなる。


こちらを愛しそうに見るその人に少し照れてしまって、少しだけさくの後ろに隠れてみた。


「ふふ、さくちゃん、しゅーちゃん、この人はね、母様の弟で、奏音って言います」


嬉しそうに、愛しそうに話す母。


それを見て私も嬉しくなった。


「…改めて、奏音です。小さい頃に何度か会ってるんだけど…、覚えてないよなぁ」


「ふふ、本当に小さな頃だもん、覚えてないかもね」


―ううん、覚えてる。


温かい大きな手を、覚えてる。


会えなくなって、悲しかったのを覚えてる。


―全部、この人の優しい微笑みを見て思い出した。