夜明け前



その人が、綺麗な顔を悲しそうに歪ませて、


「…朔乃、珠花。…大きくなったな。…覚えてなんか、ないよな。…辛い思いさせて、放ったままで…、ごめん」


そう頭を下げたその人の、私達を見つめる瞳が優しくて、…不思議と安心した。


早く、早く母様に会わせてあげなきゃ、そう思った。


―母様が、大切にしていた写真をこっそりとさくと見たことがある。


そこには幼い二人の女の子と男の子が、無邪気で幸せそうな笑顔を浮かべて写っていた。


それを大切に持っていた母様。


今ならあの写真の男の子がこの人だってわかるから。


「…母様に、会ってください…。きっとあなたに会いたいと思ってるはずだから…」


「…いいのかな」


躊躇するその様子に、


「…会ってください。会わなくて後悔するより、会って後悔した方がずっといいと思います」


さくがその人を真っ直ぐに見つめてそう言った。