夜明け前



―疲れてはいけないからと母様が休んでいる間、私達は病室の前のベンチに座っていた。


「どれくらい、時間が残ってるんだろうね」


「…うん、どれくらいなのかな」


―静かな廊下に、バタバタと走る足音が聞こえて来る。


すると、私達と一緒に座っていた翔子先生がなにかに気づいたように、私達を庇うように立ち上がり、その人に向かって頭を下げた。


走って来たその人は、先生の前で立ち止まる。


「…お久しぶりです。奏音さん」


奏音、そうと、…どこかで聞いたことのある名前。


「翔子さん、…お久しぶりです。姉様、は?」


息を整えながら、その人が放った言葉を聞いて、


はっ、とさくと目を合わせる。


この人は、奏音と言うこの人は、母様の弟だ。


―本当に、本当に小さな頃。


少し幼さの残る、母様に似た笑顔を浮かべたその人に、抱き上げられたのをかすかに覚えてる。