夜明け前



初めて聞いた、父の存在。


「…一生懸命だったわ。夢中だった。恋は盲目って言うけど、まさしくそうだったな。みるみる元気になっていって、私も嬉しかった」


―じゃあ、結婚は?


「だから聞いたの、婚約はいつするの?って。まだ15歳だったから結婚は先だろうけど、清風はお嬢様だし、婚約くらいは当たり前だろうって思って」


母様、お嬢様だったんだ。


「そしたらね、婚約も結婚もしないって。…っ、本当は許されない恋だからって、だけど幸せよ。って言って笑ってた」


「…許されない恋?」


どうゆうこと?


愛してはいけない人だった?


「…誰にも秘密の恋だからって、15歳年上の素敵な人。そうとしか教えてもらえなかったけど。…全力でその人を愛してた」


15歳だった、母様の恋。


許されない恋、叶わない恋。


それでも全力でその人を愛していた、母様。


…父様。


母様から愛されたあなたは、どんな気持ちだったの?


…どうして、側にいられなかった?