夜明け前



――何度か入ったことのある、翔子先生の診察室。


応接用のソファーもあって、座って何度かお茶をしたりもした。


だけど今ここに座る理由は、そんな楽しいものじゃない。


―コト、


私達の前に温かいココアを出してくれた翔子先生は、少し辛そうに話し出した。


「はい、どうぞ。…清風ちゃんね、今は少し落ち着いているの。後で会いに行ってあげてね」


「はい。…翔子先生?…母様は、病気なんですか?」


「朔乃くん…えぇ、検査入院なんかじゃないの。嘘をついてごめんなさい」


「…どうして、嘘なんか…」


どうして、言ってくれなかったの?


「…そうね、ちゃんと話すべきだった」


「…なら、どうして?」


「…話せなかったのよ。…あなた達が辛い思いをすることが分かってる、自分自身も辛くなる。現実を意識してしまうから、言えなかったのよ」


―言葉に出してしまえば、本当なんだって実感してしまうから。


検査入院だと笑って言った母の気持ちを考えると、どうしようもなく心が痛かった。