夜明け前



「?…さく」


「…しゅー」


ぎゅっと二人で手を握り合う。


まるで体が心臓になったみたいに、バクバク言ってる。


いやだ、いやだ。


嘘、冗談だって誰か言ってよ。


震える足でたどり着いた、母の病室の前。


開けっぱなしのドアから見えたのは、真っ白なベッドに苦しそうに横たわり、たくさんの人に囲まれた母の姿。


「「母様…」」


すっと体から血の気が引いて、周りの音が消える。


握りしめていたはずの手からも力が抜けて、知らない内に解かれていた。


病室から出て来た顔なじみの看護士さんが私達に気づいたけれど。


「っ!朔乃くん、珠花ちゃん…」


返事すら、出来なくて。


ただ茫然と母を見つめるしかなかった。


―現実だなんて思えなかった。


なにかの映像を見ているみたいで、夢だったらいいのに、ってずっと思ってた。