夜明け前



―帰り道。


「しゅー、なにやらかしたの」


「どゆこと?」


「今日、角田先生から泣きつかれたんだけど」


…ぎっくーん、つのぴー。


「なんにも知らない」


「…ノート、数学じゃなくて、歴史のノートが出てたって」


あ、歴史だったの。


「しかも真っ白だったって。それはもう悲痛な表情だったよ」


「…へー」


「聞きたいことがありすぎて、なにから聞いていいかわかんないんだけどさ。…その前になにか言っておきたいことある?」


「…なんにも聞かないでっ」


「っあ!ちょ、待って!」


「やだ!」


「だぁーもうっ!」


けらけらと笑い合って、病院までの道のりを駆けて行く。


「わっ!さく!雨!」


「ほんとだ!急ごう!」


ポツポツと肌にあたる雨が。まだ少し夏の熱が残る季節には心地好く、爽やかに感じた、秋の始まり。


これが無邪気に笑いあった、最後の日。


心から笑えるようになったのは、随分後だったね。