「コーウミくん。お昼寝?」



「……!?」



ここは向島県立平良高校……。



時は、GW(ゴールデン・ウィーク)も過ぎた5月中旬……の昼休みである。




芝生に寝そべっていた神海 和哉(コウミ カズヤ)の顔を覗きこむ女……太陽を背にした長い髪がキラキラと光るが、逆光のため顔は見えない。



(誰だ?…………イヤ、別に誰でもいい……)



和哉はゴロリと寝返り、女に背を向ける。



「へー……そういう態度とるんだあ。せっかく、私が話かけてあげてるのに」



その女……音芽 稀咲(オトメ キサキ)は、くっきりとした綺麗な顔を少し歪めると、芝生に長い足を無造作に投げ出し、和哉の傍らに座った。



その様子を背中ごしに感じながら、和哉はため息混じりに言う。



「正解……昼寝中だよ。わかったら、どっかに行ってくれない?」




それを聞いた稀咲は、ニヤッと悪戯っぽく笑った。



「嘘……ずっと、何か考え事してたんでしょ? 難しい顔してたよ」




「別に……そういう顔で寝てたんだろ?」




「でも……今は私と話してる」




「チッ……」



和哉は、小さく舌打ちをしてから、寝そべるのをやめ身体を起こす。



一瞬、稀咲の顔を見て、直後に視線をそらす。



その時、初めて話し相手を認識した。




「(コイツ確か……)何か用なのか?」




「ううん……昼休みってタイクツだから」




「いつものギャル仲間とつるんでろよ」




「へえ……一応、私のこと認識してくれてるみたいね」




「新しいクラスも一ヶ月……流石にクラスメイトくらいわかるさ」




「……そうだね」



稀咲の言葉が、急にトーンダウンした。



「ねえ、クラスの連中……つまらない奴ばっかだよね」




「? 俺の記憶が確かなら……いつも楽しそうにしてたと思うが……」




「無理して合わせてただけ……みんなガキばっか……だからタイクツ」





「だったら……俺といるのが一番タイクツだと思うよ」



そう言って、和哉は立ち上がり、その場を去ろうとするが……




「待ってよ!」



稀咲は、和哉の左手をガッとつかんでいた……。




「……!」



和哉は振り返り、自分と手をつないだ稀咲を見下ろす。




「もう少し話……しよ」



稀咲は、少しだけ瞳を潤ませながら、和哉を見つめる。




「チッ……」



和哉は、再び舌打ちをすると、やや乱暴に手を振りほどくと、稀咲の隣に座った。