君がいるから



 アディルさんの指先が、ゆっくりと肌を滑ってゆく――。

 トクン トクン トクン

 徐々に早く鳴る胸の鼓動が、相手にも聞こえてしまうじゃないかと頭の片隅で思う。そして、私の頬を覆った掌は、少し冷たく感じ小さく肩が跳ねた。でもそれはきっと、私の頬が熱を持ち始めたせいだ――。

「あきな」

「ア……ディ――」

「アディルー!!」

 突如、発せられた甲高い声が私達の間に流れた空間を割った。現実に戻ったと同時に、柔らかな笑みを浮べたアディルさんの手から離れ、慌てて上半身を起こした。熱を持った頬を押さえ込むよように掌で覆うと、感触が残っていて思い出すと更に頬が火照り出す。

「やっと見つけたぁ!」

 あの甲高い声の主が傍にいることに気づき、視線を向けた先にはアディルさんが体を起こしている所に、あのピンクの髪と赤い大きな瞳の女の子が背中から腕を回し抱きついていた。

「シェリー、いっぱい探したんだよー」

 頬を膨らませながら甘えた声で、2人の頬が重なる。

「今、あきなとお昼寝しようとしてた所だったんだ。シェリーも休憩中なら一緒にお昼寝する?」

「あきな……?」

 小さく呟くように私の名前を口にすると、勢いよく私の方へ鋭い眼光を向け、眉間に皺を寄せて目を細める女の子。実際には見えないけれど、彼女を覆う敵意むき出しのオーラのようなものを感じる。そして、にかっと口端を上げて、見せ付けるかのようにより一層アディルさんの体に密着し始めた。

「いつも傍にいる髭の騎士の人がアディルのこと探してた。大事な用みたいだよ? それを聞いてシェリーが迎えに来たの」

「……そうか。ありがとう、シェリー教えに来てくれて」

 お礼なのか、頭を撫でてあげるアディルさんの掌と感謝されたことが嬉しかったのか、満面の笑みを浮かべて私を見る視線とかち合うと、妖しげに口端を上げた女の子。一瞬、自身のこめかみが微かに動いたのを自分でも気づかなかった。
 そうして、2人が立ち上がったのを目にして私も腰を上げる。

「あきな。部屋に戻るなら、シェリーに連れてってもらって」

「えっ」

 アディルさんの口から飛び出た言葉に、私は思わず声を出してしまった。