君がいるから



「彼女は何らかの事情でこの世界に迷いこんでしまった。老様方が懸命に帰る方法を調査していらっしゃる。その間、彼女の手助けをしてやって欲しい」

 話終え、静まり返る中で落としていた視界の隅でさらりと何かが落ちる気配が。はっと顔を上げ隣へ視線を向けると、そこには皆に向かって頭を下げるアディルさんの姿を目にする。
 すると、ふふっと微かに鼻で笑う事が、奥からしたかと思えば――。

「副団長が俺らに下げるなんて珍しいっすね! 言われなくても可愛い子の手助けなら、喜んでやりますよ!」

「まっ俺らは頼まれなくても。何でも手取り足取り!」

「なんせ俺らは副団長に似て、女の子だーい好きだからなっ?」

 がはははっと豪快に笑い出す人達の声で、先程の真剣な面持ちから次々と誰もが表情を緩め、あっという間に賑やかさが戻った状況に私は口があけっぱなしに。

「ね? 言った通りだったでしょ」

 頭上から降ってきた声に見上げると、片目を瞑りながらにこやかにするアディルさんの姿があり、私もまた頬を緩め頷いた。

「副団長! あきなちゃんに質問あるんすけど、いいっすか!?」

「俺らにも、声聞かせてくださーいっ」

「あぁ、まったくこいつらは……女の子が目の前にいるとすぐこうだ。あきな、簡単でいいから挨拶してみる?」

 少し迷いはしたものの小さく頷き、アディルさんが手を数回打ち視線を集める。一斉に集まった視線に一瞬、たじろいだけれど、心の中で気持ちに勢いをつけ軽く息を吸い込み、口を開く。

「山梨あきなです。しばらくの間、お世話になります。ご迷惑掛けることもあるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします」

 ちょっと早口で言い終え、バクバクと煩い心臓を抑えるように胸の前で拳を押し付け、思いっきり頭を下方へ向けた。

「あきなちゃーん」

「今度、俺と街へ行こうぜー」

「はぁ? 誰がお前なんかと行くかって」

 途端に何処からともなく、指笛や拍手の音に混じって一斉に言葉が飛び交う。そして、頭を上げた途端に我先にとたくさんの人たちが詰め寄って来る勢いに驚きで目を丸くする。

「お前らは少し落ち着いて話が出来ないのか? あきなが驚いてるだろ、自分の席に戻れ」

 呆れ顔のアディルさんが手で払うような仕草をするも、中々散らばらない人達。私はその光景にただただ驚き、苦笑を浮かべた。
 ――っとそこへ。

「アーディルー!!」

 甲高い声と共に男の人達の背後から何かが飛び上がったかと思えば、その何かがアディルさんの元へ突っ込む。その拍子に倒れるかと思いきや、アディルさんは腕の中で受け止めた。

「シェリー」

「アディルー!」

 目の前にはアディルさんの背中へ腕を回し、うっとりと丸い紅い瞳で彼を見上げる小柄な――。

「女の子?」

 私の声にぴくり――耳が反応し、綺麗な大きくて丸い紅い瞳が向けられた。