君がいるから



 昨日、案内された食堂の扉は閉まっているのにも関わらず、外側にいる私達の元まで賑やかな声が漏れ聞こえる。その場で立ち尽くす私の背にアディルさんが手を添えながら、扉を押し開いた。

「それは俺んだろ!」

「こんなもんは早い者勝ちだ!」

「誰だよ!! 俺の肉取った奴!!! お前か!?」

「ざけんな! これは俺んだよ」

 ――開いた口が塞がらないとはこういうことなんだろうか、っと頭の片隅で思う私は飛び込んできた光景に驚きを隠せなかった。
 まず、広い食堂にある4列並んだ長いアンティーク調のテーブルにはたくさんの食べ物と飲み物が並べられ、それをナイフやフォークなどの食器を使うのはもちろんんこと、手づかみでがむしゃらに食べる人――食べ物をめぐって争う男性の面々。この場の人口密度はあまりにも高く、壁際には甲冑や洋服やらが無雑作に投げ置かれている状態。
 だからなのか、半数以上は上半身裸という状態で食事に食いつく姿に、何だか羞恥が生まれ顔を俯かせる。上半身だけとはいえ、こんなに大勢の男の人達の肌を見ることはそうそうあるわけがなく、目のやり場がない。

「あきな? 俺達の席は取ってあるから、行こう」

 アディルさんに声を掛けられ、背を押されながら賑わう中を掻い潜って奥へと進む途中、近くを通りかかった女性とアディルさんは言葉を交わす。そうして、何席か空いている場所へと辿りつく。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

 椅子を引いてくれたアディルさんにお礼を言い、腰を下ろす。

「今、食事持ってきてくれるだろうから待ってて」

「はい。それにしても、すごいですね……皆さん」

 辺りを見渡して賑やかな光景に苦笑すると、アディルさんが私の隣に腰を下ろして腕と足を同時に組む。

「騒がしいよね。食事中は静かにって言ってるんだけど、中々聞いてくれなくてね」

「ははっ。普段目にしない光景なので、驚いちゃいました」

「驚かせてごめんね。でも、今日の騒がしさは特別酷いな」

 私に向けていた視線を男の人達へと移し、くくっと喉を鳴らして口端を上げる。

「一睡もしてないとこうなる」

「一睡も――って、もしかして昨夜のあの人の事でですか?」

「…………」

 笑みがふと消えたのを目にして、聞いてはいけなかったことかと肩を竦め、申し訳なく視線を落す。

「朝からそんな顔すると、良いことがたくさん逃げちゃうよ」

 また温かく大きな掌が頭を撫でられる。この人の柔らかい笑顔に、癒されてる自分がいる。

「あれー!? また口説いてるんすかー?」

「朝からやりますねー副団長」

「その子――見かけない顔ですね」

「あっ! さてはあいつみたいに拾ってきたんすか!?」

 からかいを含んだ口調で傍に寄ってきた人達が、一斉に喋り出しがはははっと豪快に笑い声を上げた。