君がいるから



   * * *


「ところで、アディルさん」

「ん?」

 少し時間をもらって汗を流し制服に袖を通した私は、昨夜とは違って窓からたくさんの陽の光りが差し込み、暖かさがある歩廊をアディルさんと肩を並べて歩いている所――。

「何処に行くんですか?」

 先ほども口にした質問をアディルさんへと投げ掛ける。アディルさんは私に行き先を告げずに連れ出すものだから、問わずにはいられない。

「あぁ、ごめんね。何も伝えずに連れ出して。実は食堂なんだ」

「食堂ですか」

「そっ。1人で食べるよりも皆で食べたほうがおいしいでしょ?」

「皆って……」

 歩幅を合わせてくれるアディルさんへ視線を向けると、満面の笑みを浮べていた。

「昨夜は1人で食事させてしまったから、そのお詫び」

「そんなお詫びだなんて」

「2人で食事でもよかったけど。少しでもあきなにこの城に慣れて、部下達とも仲良くなってくれたらって思って」

「……私……そんなことまで気遣って頂ける立場じゃ」

 どうしても、ギルスさんやアッシュさんの私に向ける瞳が頭から離れない。それに異世界から来たと話して、果たして信じてもらえるのか、受け入れてくれるのか……多勢の人たちにまであの2人のような目をされたら――。
 俯きながら顔を歪ませていると、微かに笑う声と共に頭に重みが乗る。ふと見上げた先に、アディルさんの大きな手が私の頭を優しく撫でていた。

「がさつな連中も多いけど、中身は皆いい奴ばっかりだから、そんなに不安がらないで。それに、女の子には飛びっきり優しくって教えてるから」

 優しい手つきと柔らかな口調のアディルさんに、自然と笑みが零れた。

「あきなは笑顔でいて。そんなに落ち込んだり不安がったりしてると、折角の可愛い顔が台無しだよ」

「え!?」

「そうやって、すぐ赤くなるところもまた格別に可愛い」

「かっかっ、からかわないで下さい」

 くすくすと笑うアディルさんから顔を逸らし、頬を膨らませる。

「そういえば、昨夜は王が部屋に連れていってくれたみたいだね」

「あっ!」

 っと急に声を上げ立ち止まる私に、首を傾げながら見つめているアディルさんに再び問う。

「王様の怪我は、ちゃんと治療してましたか?」

「怪我? あぁ、心配しなくても大丈夫だよ。王はあれぐらいのことで倒れる人ではないし、安心して」

 あははっと微笑む表情に、胸を撫で下ろした。