君がいるから



   * * *


(――まただ)

 見渡す限り黒が支配する世界の中に、制服を着た私は立ち尽くしている。

 ―――っ。

(誰!?)

 振り向いても、姿形はなかった。前も後も、方角さえ何も分からない360度見渡しても状況は変わらない。

(このままここにいても……どこにどう行ったらここから抜け出せるんだろう)

 暫くその場で立ち尽くしていたら、ここが何処だか分からないのにも関わらず、足が勝手に動き歩み始めてしまう。戸惑う反面、何故だか誰かに呼ばれているような感覚も。
 道なんてない暗闇の中をひたすら歩み続けると、一筋の光が見え始める。黒の世界に差し込む光に、ここから出られるという嬉しさから自然と速度が増す。
 そして――光の中へ足を踏み入れると、眩しさのあまり目を瞑って白い世界を走り抜けた――。







 心地良い風が頬を掠めていく。瞼を開けたら、そこには綺麗な青々と生い茂った草――小さな花々が咲き誇る草原に立っていた。

(すごく綺麗)

 青い空に壮大な草原の美しさに思わずため息が零れた。風が吹く度に、草や花の香りが運ばれ鼻腔を擽る。

 ――こっち。

 再び背後から呼びかける声。

(ねえ!? 一体誰なの、教えて!)

 ――こっちだよ、こっち。

 からかいが混じったような笑い声に吸い寄せられるように、足を踏み出した。
 歩みを進めて小高い丘に出た先に見えたのは、家々が立ち並び小さな広場でたくさんの人の楽しげな笑みと声。お酒を飲む大人、友達同士で遊ぶ子供達、思い思いに楽しんでいる様子が伝わってくる。和やかな雰囲気に私まで口元が次第に緩んでしまう。







 ドーーーンッ!!!


(キャーッ!!)

 突然、地をが揺れ爆音が辺りに鳴り響く。まるで竜巻が起こったように風が吹き荒れ、吹き飛ばされないように身を屈め手で耳元を覆った。吹き荒れた風は一瞬して過ぎ去り、体を起こしそっと辺りを見渡す。

(な……に……これ)

 見た先に映る光景に私は言葉を失う。そこには先程みた和やかな街雰囲気も人も姿形はなく、ただの瓦礫の地と化してしまっていた。青かった空はいつしか灰の空へと変わり、空から頬にぽたりと落ちてくる滴に掌を差し出す。また1つ、ぽたり――掌に落ちたのは赤い雨――。