「ジョアンさん、あきなは今どこにいるか分かりますか」
「レイ様――或はシェヌ爺の所に行っているのかもしれません」
そうか――心中で呟き、しばしの間沈黙が漂う中、思い浮かぶのは暫くすれ違いが続き、顔を合わせていないあきなの姿。
「ジョアンさん申し訳ないけど、後で食べるから今はワゴンを片付けて貰えますか」
「承知しました」
「出ますから、宜しくお願いします」
「お任せ下さい。いってらっしゃいませ」
ジョアンさんは俺に向かい折り目正しくお辞儀をし、その行為が終わる頃に俺は部屋を出た。
部屋を出たすぐはいつも通りの足取り――だが、気づくとそれは速度を増していた。あきな――その名を聞いただけで、彼女の声が聞きたい、四六時中腕の中で抱きしめたい欲望が生まれる――けれど。
――アディル
そう何度も俺を呼ぶ声は――。
「アディル副団長、お疲れ様です――って副団長!?」
無心でなおかつ早足で歩くあまり、前にいたであろう挨拶をする部下から通り過ぎてしまい、途端に気づき足を止める。
「悪い。気が付かなかった」
「珍しいですね。何か考え事でもしてたんですか? それもそんな急いで」
「……あぁ。そういえば、あきなを見ていないか」
「あきな様でしたら、先ほどシダイと共に療養中の老様のご寝室の方角へ行かれるのをお見かけしましたが」
「……そうか」
部下は一度頭を下げ、俺が来た方角へと去って行く。俺はそれを見送り、ふと頬を撫でる風に目を細め、横方へと目を向ける。バルコニーへと通ずる硝子戸が空気の入れ換えか開け放たれ、穏やかな風が流れ込む。自然とその方へ足は向き、空を仰ぎそっと瞼を閉じる。
「アディルー!!」
静けさと柔らかな風が流れる中、甲高く幾度となく聞きなれた声、こちらに向かってくる元気な音にそっと瞼を開き、声がした方へ顔を向けた。
――と同時に、腰あたりに受ける軽い衝撃に目を下方へ移動させると、濃桃色のくるりとした髪がある。その主は顔を見ずとも分かる。
「シェリー。どうしたの? 休憩中?」
「うん! だから、アディルに会いに来た!!」
「そっか」
掌で濃桃色の柔らかな髪を軽く撫でてあげると、頬を摺り寄せ甘える。そうして、顔を上げて見せたのは輝く表情。
「アディル、遊ぼう!」
そう言って、輝く赤く丸い瞳に小さく笑う。
「ごめんね、シェリー。これから、あきなを迎えに行かなきゃいけないんだ」
「また、あきな……。どうして、どうしてなの?」
「シェリー?」



