君がいるから



 陽の光はカーテンで遮られた薄暗い中に一つの影。あの日、2人で寄り添って眠りについたソファーの上――。横たわる主は、どうやら夢の中のようで何故だかホッと肩の力が抜けた。そっと顔を引っ込め、騎士さんにお願いをしてメモを残して行こうっと踵を返そうと――。

 パサッ

 耳に届いた微かな音に、もう一度顔を戻し再び覗き見る。身動ぎをして落としたらしいブランケットがソファーの下に。その証拠に、今、長い腕がぶらりと、下方へ落ち指先が床に掠める。
 この状況を目にして、このまま放って行くことも出来ないと、一つ息をついて忍び足で歩み進む。静けさが漂う空間――規則正しい息遣いだけが耳に届く。たどり着いたすぐ目下には、深い眠りについている端正な横顔。目を閉じて夢の中にいる彼は、それだけで絵にさえなるんだな――少しばかり見入ってしまう。床にすべり落ちたブランケットを拾い上げ、起こさぬようにとそっと体に掛ける。風邪をひきますよ――そう胸の内で呟く。

 胸元辺りまで掛け終えて、屈めていた体勢を戻そうとした時――。二の腕に違和感を感じたかと思う瞬間もなく、力強く下方へと引かれて体勢を崩し逞しく何度も私を包み込んでくれた胸の中へと落ちてしまった。
 突然の事で瞼を見開いていたものの、すぐに我に返り慌てて胸板を掌で押し当てて体を浮かせる。

「ア、アディルさんっ。もしかして、ずっと起きて――って、あ……れ?」

 先程の気の張った空気はどこへやら――少し上ずった声だったにも関わらず、私の下敷きになっている主の双瞼は閉じたまま。寝息に合わせて胸板が上下に規則正しく上下に動き、それがまた私の方にまで伝わってきて、どうやらまだ夢の中のよう。静かに息をついて、あまり揺れ動かさないように彼の上から降りようと試みることに。
 ――けれど、腕はがっしりとホールドされている状態で、抜け出すのはそう簡単にはいかない状況。とりあえず腕の事は後回しにして、とにかく上から降りることが先決。いつ、私の体重に耐えられなくなって目を覚ますか分からないし、万が一この状況で目を覚まされでもしたら、私が寝込みを襲った――なんて勘違いをされてしまう可能性が。