* * *
「自分はこちらで待機しておりますので」
折り目正しく礼をした後、騎士さんは壁に背を向けて足を肩幅に合わせ広げ立つ。
「……はい」
少し気の入ってない返事の私は自身の手元に目を向ける。カートに乗せられた真白のお皿に盛られた色鮮やかな料理の数々を映したまま、小さく息を吐いた。ジョアンさんからの頼み事と――それは。
『アディル様にお食事を届けて頂きたいんです』
『え? ア、アディルさんにです……か?』
『はい。お食事よりも甘い物を口にしているようで……お身体が心配でして。本日はお昼から自室にて少し身体を休めると先程おっしゃっていたので』
『……そうですか』
『あきな様が顔をお見せしたら喜ぶと思いますし。お願いしてもよろしいでしょうか?』
ジョアンさんたっての頼みを断わる事は出来ず、首を縦に振ったものの、その心中は複雑で。アディルさんとは、中々顔を合わす機会がなかった。すれ違いばかりで、城や街の様子――日々多忙なアディルさん。そんな彼と顔を合わすのに緊張しているからか、それとも今朝の事が気になっているのか――自身のことなのに、よく分からないでいる。
いつまでも、この場から動こうとしない私に向けられてる視線に気づき、目前の扉を数回拳で叩いた後、取っ手に触れた。ジョアンさんから、事前に食事を届ける主旨をアディルさんには伝えており、来訪を知らせる音に返答がなくとも、中へ入ってもいい許しを得ているらしく、深呼吸をし扉を押し開く。
足を踏み入れると、微かな物音さえ耳についてしまうくらいとても静か。なるべく物音をたてぬように、注意を払って扉も閉め、カートを押して更に奥へと足を進める。先日、この場所に来たばかりなのに、その時よりも緊張してるのは何故だろう。
ダイニングテーブルにたどり着きカートを寄せて、テーブル上にジョアンさんに教えてもらった通りにお皿を並べていく。こうして、準備している間にも部屋の主がいつ現れるのかと、内心落ち着かずにいたけれど、一向に顔を見せることがなく、最後のお皿を並べ終えた。
ふと息をつき、そのまま部屋を後にしようかと思いはしたものの、そうはいかずに一言声を掛けようともう1つ奥へと足を向ける。あの時――共に朝を迎えた場所。開かれたままの扉から、顔をそっと覗かせ中を伺い見る。



