「俺、ジョアンおばちゃん達の手伝い朝からしてたんだ!! 料理も少しずつ教えてもらって兄貴達にうまいって言って欲しいんだ! それでね、その他にね」
食堂へと向かう歩廊をシャンロを間に挟んで肩を並べ進んで行く最中、シャンロの話は止まることがない。とても楽しくて仕様がないというのが、表情や身ぶり手振りにも表れていて、その無邪気さに騎士さんと顔を合わせ笑い合う。
一つ角を曲がろうと差し掛かった時――その奥から男女の笑い声が。何処と無くその声に聞き覚えがあるような気がしたものの、そのまま角を曲がり終え――。2、3歩進み足が止まってしまった。
シャンロと騎士さんの背が先行く、その奥――1人の女性が顔を赤らめながら笑む前に立つ1人の男性の姿。
朝陽に照らされ輝く金の長髪――。お互いの顔を近づけ、優しくいつも包んでくれたあの手が女性の頬に触れている。とても楽しげな2人、端から見たら、それはまるで。
「あれ? おねぇちゃん、どうかしたの?」
シャンロが足を止めた私を首を傾げ見る姿に、微かに口端を上げて見せる。視線を少し落とし、でも目が微かに泳ぎながら、幾分か開いた2人との間を埋めて騎士さんの背後に着く。
「あきな様? 何か――」
「……いえ。先に前へ進んで下さい」
胸の奥が気持ち悪くて、和らげようと胸元を擦る。
「あれ? あれは副団長?」
騎士さんが前方の光景に気づき、私へと視線が移されたのを気配で感じとる。気を使ってなのか騎士さんが、そっそういえば――っと少し慌てたようにシャンロと私へ話を振ってくる。けれど、空返事を繰り返す私。そうして、騎士さんの足が止まり、右側にある扉が開かれて賑やかな空気が流れ出てくる。小さく柔らかな手に掴まれて、いきなり引き込まれ、前屈みになってしまう。
「うわっ」
「おねぇちゃん、早く席に着こう!! 早く早く!!」
「シャンロ、あきな様を急かしちゃダメだろ。また人とぶつかりかねないんだから、落ち着いて案内してあげなさい。な?」
興奮するシャンロの頭に手を乗せた優しい口調の騎士さんに言われ、あっそっか――っと落ち着きを取り戻す。
扉を押さえた騎士さんに中へと促され、足を踏み出す間際――騎士さんと扉との隙間から、奥へ視線を向ける。金の髪の主はこちらに気づくことなく、楽しげな声色は今はまだ切れることはなさそうで。顔を背け、言い知れぬ気持ちが胸の内を覆いつくし始めたまま、シャンロに誘われながら中へと足を進めた。



