君がいるから




 大きな掌によって勢いよく水が捻り出され、手の甲に当てられる。

「ジン!? 大丈夫だって言ってるのに。これくらい本当に何でもないんだって」

「たとえ、小さな火傷だと油断するな。折角の綺麗な肌に跡でも残ったらどうするんだ」

「へ?」

(今、ジンの口からとんでもない言葉が飛び出した気がするのは私だけ?)

 手首を掴まれたまま、ジンの手も冷たい水に当たり続けてる中、驚きのあまり目を見開いてジンの顔を凝視してしまっていた。そんな私の視線に気づき、ジンもまた目を見開く。自身が今しがた口にした言葉に漸く気づいたように。

「あっ……いや、悪い」

「……こちらこそ」

「…………」

 2人して気恥ずかしさから黙りこんでしまい、水音だけが辺りに響く。次第に水のあまりの冷たさに手の感覚が無くなっている頃、私は限界を迎えおずおずと口を開く。

「ジン、もう手離してもらっていいかな? 手、の感覚がほぼ無くなってきた……」

「――っ!!」

 肌の色が青白く変色してきたのに気づき、ジンは慌てて蛇口を捻り戻し水を止めた。傍にあった柔らかなタオルで私の手を包みこんで、まるで温めるみたいにジンの掌が更に重なる。

「本当にすまない」

「う……ううん、本当にもう気にしないで。大丈夫」

 口端を上げて笑みながら言うと、ジンはふと視線を落とし目を細めた。

「お前さ」

「うん?」

「それ、口癖か?」

「どれ?」

「大丈夫って、やつだ」

 記憶を辿るけれど、自分で口癖だなんて思うほど言ってない気がして首を傾げる。ジンはタオルに視線を落したまま、次の言葉を零す。

「何かあったのか」

「……何かって?」

「笑いたい時には笑えばいいと言いはしたが、無理に笑えとは言った覚えはないぞ」

 唐突に投げられた言葉に、一瞬強く脈打つ。ジンにも私の考えてることが分かられてしまう程、顔や態度に出てしまっているんだろうか。

「大丈夫だよ」

「…………」

「私は大丈夫。ジンの方が色々とあるでしょ? ギルスさんのことや、国の人たちのこと。それに私が思ってるよりも、ずっとずっと考えることあると思うから、だから」

「だから、なんだ」

 ジンの漆黒の瞳の眼差しがまっすぐに注がれる。その瞳を私も逸らさずに、口端を上げて笑みを作り上げ――。