君がいるから



 玉座の男の返答はいらんばかりに、1人で話を終わらせ踵を返すハウィー。

「毎回、我を愉快にさせてくれるな。ハウィーよ」

「別にあんたを楽しませたくて、こっちはやってるんじゃないんですけどね」

 君主である人物に対して背を向けたまま、気だるそうに手を振るハウィー。その姿に、ますますラスナアの眉間の皺は濃く刻まれる。

「ハウィー」

「だから文句は聞かないって言ったろ」

 背後から己の名を呼ばれ、首を捻り視線をやる。銀の瞳が映したのは、肘掛に肘を預け指先を頬に添え君主の口端が上がっている姿。そして、言葉に出来ぬ異様なモノが君主を纏っているのが瞳に映りこみ、先程まで愉快気に上がっていた口端がヒクつく。辺りが先ほどよりも寒冷が増したのを肌が感じて喉が大きく鳴り、慄然に似た昂揚感で口が、肩が、拳が、全てが震える。

(あぁ――なんだよ。なんだよ……これは)

 銀の瞳を揺らし、その奥には好奇を宿しながら見開かれていく。

(あぁ……ねぇ……。今、今、今、今、あんたと遊びたい)

 息を荒くさせ、肩が上下に揺れていく。それはまるで、飢えに耐えきれず獲物を目にし喰らい尽したい衝動に駆られた獣。震える手が次第に腰に添えられた剣のグリップへと伸びていく。


 だが、君主を纏っていた禍々しいモノは、君主の体に引き寄せられ次第に消え失せる。いや、消えたのではなく吸収されたのだ――男の中に。

(最高だ――最高すぎるよ……あんたもアイツもさ)

 両の肩がくつくつと震え、グリップに添えようとした手をだらり――下方へ落とすハウィー。その少し離れた場所、油汗を浮き上がらせ、ハウィーとは違う震えが襲い、立ち尽くすラスナアがいた。

「ハウィー。まぁ、もう少し待つがよい」

「もう少しっていつまで待てばいいのさ?」

「――ハウィー。お前にやってもらねばならぬことがある」

「へぇ~。待たせるだけ待たせておいて、ガッカリする事だったら容赦しないよ」

 ハウィーの言葉に玉座の男は、足を組みなおし口を開く。

「断言しようではないか。ハウィー、お前なら誰にも譲らぬことだ。必ずや首を縦に振り、そなたが待ち望んでいた遊びを思う存分楽しむといい」

「僕を楽しませてくれることやらせてもらえるんだね? 嘘つきは嫌いだよ?」

 光を宿さない黒の瞳が己の銀の瞳の視線と交わり、ハウィーは目を一度細め再び踵を返してその場を去って行く。