「別にいいっしょ? この人、気にしてなさそうだし」
「貴様!! 陛下に無礼な物言いを!!」
ラスナアの言葉などまともに受けない青年は、両腕をまっすぐに天へと向け背を伸ばした後――首の骨を鳴らした。その青年の態度にラスナアはますます眉間に皺を寄せ、怒りを増幅させていく。ラスナアの態度を楽しんでいるかのように、彼は口元を上げる。
「君のその挑発的な瞳は嫌いじゃないよ」
「……っ」
「そういう瞳を見ると、とてもとても――」
蝋燭の灯火に浮かぶ不気味な笑みの青年の表情。ラスナアは一瞬息を飲み込み、嫌な汗が一筋に流れる。青年の周りを覆うモノは禍々しく、今の自分ではこうして一瞬でも身を引いてしまう。こいつにだけは下手に相手にしないほうが良い――直感的にラスナアは思う。
「君とはそのうち、ね。楽しみにしているよ?」
青年を纏っていたモノはその言葉と共に消え去り、ラスナアの頬には一粒の汗が滑り落ち足元に滲みを作った。
「そうだ、そうだ。お願いがあってここに来たんだった」
人差し指を立てて笑みを浮かべた青年は、ラスナアから玉座に腰を下ろしている人物へ視線を移す。姿を捉え、口端を上げて首を少し傾けて口を開いた。
「あのさ、お願いというか。まぁ、許可を取らずに行こうとは思っていたんだけどさ。まぁ? あとあとごちゃごちゃ言われたくないから、一応許可を貰おうかと思って」
「前置きはいい。そなたの願いとは何だ――ハウィー」
重低音の声質が青年――ハウィーへ向けられる。すると、ハウィーはますます口端を上げ、白い歯を覗かせた。
「遊びに行きたいんだ。それも今からさ」
「ハウィー、貴様! 今がどういう時が分かっているのか!? 貴様にも役目というものがありながら、それを投げ出し自由に動くなど許されるわけが――」
「ラスナア」
ラスナアがハウィーへ怒号を上げたが、それを遮って静かに放たれた己の名。たったそれだけのことだが、ラスナアは一瞬にして体が硬直し口を噤む。一度ハウィーに鋭い眼光を向け唇を噛み締めたのち、視線を下げ三歩後退する。
「――ハウィー。続けろ」
「んーっと、だから遊びに行きたい。っというか、行くっていう報告」
「大方、予想はつくが」
「あなたの予想通りだと思うよ? まぁ、そういうことだから。とりあえず報告はしたから、あとでの文句は聞かないからねー」



