* * *
――闇を纏う異様な気を放つ場所。その中でも、一際肌に纏わり付く冷気に身震いしてしまう一室に、今宵は月明かりが無く、蝋燭の灯火が等間隔に灯されている。
この一室に1人――冷たい大理石に片膝を付き、右拳を胸に当て瞳を閉じ頭を下げる青年。
「ただいま戻りました」
青年の声音が冷気によって反響する。青年を少し高い位置から見下ろすように視線を向ける男が1人。白の装束を身に纏い、玉座に腰を下ろし長い足を組んでいる。男は徐に口を開く。
「全ては我の指示通りに動いているか」
重低音の声が冷気に溶け響き、青年は思わず肩が小さく反応を示す。瞼を薄っすらと開き、玉座の男に答える。
「はい。事は順調に進んでおります」
「そうか――ラスナア、ご苦労だった」
男から掛けられた言葉に青年は、頭を上げ目元を細めゆるりと口端を上げた。
「あなた様のそのお言葉は、私にとって何よりの褒美」
青年――ラスナアは再び頭を下げ戻す。その時、青年の背後から靴音が耳に届いた。
コツコツコツ
靴音を聞いた瞬間――青年の表情が一変。先程とは打って違い殺気を放つ。
「お前のこの人に対する態度ってさ、何、何なの? 見てて気持ち悪くなる」
――刹那。ラスナアは背後を見ずに剣を抜き、自分の背後に迫ってきた者に切先を突きつける。だが、切先を向けられた青年は微動だにせず、ただ笑みを浮かべているだけだ。
「やめなって。お前に僕は殺れない」
「――っ!」
ラスナアはそこで息を呑む。自分の首にいつの間にか剣の刃があり、視線だけを動かし見ると、自分が向けた切先は青年の首元に数ミリ及んではいなかった。
「ね? まだまだだったでしょ?」
「くっ……そ」
ラスナアは苦虫を噛み潰したように――声を吐き出した。
「これ、早くひっこめてくれない? じゃないと僕もこのままになっちゃうし、っというかマジで刺さっちゃうよ?」
ラスナアは舌を打ち、一度グリップに力を込めたのち――剣を鞘に収めた。ラスナアの行動を目にして、青年もまたラスナアの首元に挑発するかのように数回剣の刃の平らな部分で軽く叩き遠ざける。
「我等が陛下の前だ。その態度をいい加減に改めろ」
ラスナアは肩を並べ立つ人物に、瞳に殺意を含めた視線を向け言い放った。



