「お前の耳は飾りか」
「あなたにどう思われていようと、構いません」
「…………」
もう一度、脱脂綿をアッシュさんの額の傍に持っていき、言葉を続ける。
「今はあなたの額の怪我が心配なんです。ただそれだけです。でも覚えてて下さい」
「…………」
「私は私の意思で行動します。何度あなたに冷たく当たられようと、拒否されようとも。信じてほしいとも言いません」
はっきりとした声――言葉を言い切り、アッシュさんはそれ以上口を開こうとはしなかった。アッシュさんの額の手当てをする間、時折――あの龍の間で見たアッシュさんの表情が思い浮かんだ。
どうしてあんな表情してたのか。この傷は誰かにつけられたものなのか、それとも自らの手で――。その理由を聞くことは、私には出来ない。聞いたところで答えてはくれないだろう。
傷口は思ったほど深くはなく胸をなでおろしたものの、赤く染まる脱脂綿やアッシュさんを纏う空気がとても悲しく――切なく思えて仕方なかった。
白灰の髪に付き固くなった赤を拭う為、中瓶に入った水をガーゼに含ませて溶かし落とす。ガーゼを傷にあてる時も包帯を捲く時も、痛くないか、きつくないか――幾度も問うてみたけれど、口を閉ざし続けていたアッシュさん。包帯の端を結び止めて手当ての終わりを告げる。白い箱に道具を戻し片付けを。
「手当ては終わりました。痛むようでしたら必ずシェヌお爺さんの所に行って下さい」
結局、終始互いの視線を合わせぬまま。けれど、私は少しだけ安堵してた。あの鋭い青の瞳と出合っていたら、きっと緊張のあまり手が進まなかったのかもしれなかったから。
片付けが終わって箱を持って立ち上がる。同時に、視線を感じて振り向く。視線の先には出て行ってしまったと思っていたレイが壁に背を預け、両のポケットにそれぞれ手を入れ立っていた。
「……レイ」
薄明かりでよく表情は感じ取れない、ずっと私のことを見ていたんだろうか。再び、アッシュさんへ視線をやり、一礼をして踵を返す。レイの前を通り過ぎ、その場を無意識に足早に去る。背後で後を追ってきた気配を感じ取った。
アッシュさんの部屋を出て、外で待っていた騎士さんが心配そうに様子を問われた。治療を終えたと告げたら、騎士さんは表情を和らげ安堵していた。だけど、私は騎士さんに口端を上げて見せることは出来なかった――。



