君がいるから



「――分かりました。必ず、アディルさん達に知らせます」

「構えて下さい。灯火で姿を確認出来る距離に到達します」

 歩廊に灯された火により、扉の向こう側にいる影の正体が足元から次第に明らかになっていく。緊張から生唾が喉を通り、胸の前で握られた拳に力がより篭もる。

 足、腰、胸――そして、首元。灯火は輪郭を映し出す――。
 空から止めどなく落ちる雫で濡らされた全体。表情は俯き見ることは今はまだ出来ないけれど、灯火によって白灰が赤橙の色に染まり、毛先から小粒の雫が落ちていく。その姿を目にした瞬間――私と騎士さんの声が重なったのは、ほぼ同時――。

「アッシュさん!!」

「団長!!」

 硝子戸を勢いよく開き、よろめくアッシュさんの元へと駆け寄った。

「団長!! どうなさったんですか!?」

「アッシュさん……こんな、酷い怪我――」

 騎士さんがアッシュさんの体を支える背後、思わず私は口元を両手で覆ってしまう。目の前にいるアッシュさんの姿は、全体が水が滴るくらいに雨に濡れ、その水に赤が混ざっていた。隊服は泥で汚れ、鋭い葉にでも切れたのか所々に切り口がある。左手の甲には――痛々しく傷つけられた跡が。伏せられた顔を伺うと、額にも同じような傷があり白灰の髪が血で染まっている。
 視線を下げるた視線先に、指先からは赤い雫が下方に落ちては円を作り出しているのに気づく。

「団長!! 自分の声が聞こえていますか!? 急ぎ手当てを――」

「私、シェヌお爺さんを呼んできます!」

「あきな様お1人で行動してはなりません!!」

「そんなこと言ってる場合じゃないです! とにかく呼んできますからっ」

 踵を返し足を踏み出そうとした時だった――。

「余計なことはするな」

 背後から届いた言葉に動きを止まる。振り返ると、騎士さんの手を弱々しくも振りほどき、よろめきながら私の目前にまでやってくる。

「アッシュ、さん」

「お前には関係ないことだ」

 私の横を通り過ぎる間際、投げ捨てるように言われた言葉。覚束ない足どりで歩廊の向こうへと去るアッシュさんの背中を私達は見ているだけ。その場を動くことも声を掛けることも出来なかったのは――アッシュさんの背中が、そうさせない雰囲気を纏っていたから。