君がいるから



「しかし、シェリーは分かっているん筈なんです。アディル様と離れる日がいつか来ることを。それまでに、あの子にとってアディル様だけではなく、ありのままの自分でいられる場所が見つけられることをいつも私は願っています」

「ジョアンさんは、シェリーのお母さんみたいですね」

 私がふいに声となって出た言葉を、ジョアンさんは声を漏らし笑う。

「今、何かおかしな事でも言いましたか!?」

「いえっすみません。こんな年寄りが母親なもんかと、シェリーの怒る顔が目に浮かんでしまって……ふふっ」

「年寄りだなんて、そんなことっ」

「そういうフォローは逆に失礼だろ。見た目通り年寄りだろ、ジョアンは」

 話の間中、一切口を開かなかったレイが突然割って入ってくる。そんなレイに手の指をそろえて伸ばし、白灰の頭に一直線に振り下ろす。

「――っ!!」

「少しは言葉を選んで口に出しなさい」

 レイは無言で頭を抱え背中を丸める。強くやりすぎたかもと、少し後悔の念にかられるが、たまにはいい薬なのかと放っておく。私達を見ていたジョアンさんが、再び笑い声を漏らす。

「そのようなことが出来るのは、後にも先にもあきな様だけかもしれませんね」

「すっすみません。一国の王子様にこんなこと」

(やっぱり、まずいことしちゃった……つい、コウキと同じように)

「あきな様」

「はいっ」

 怒られると覚悟して背筋を伸ばす。途端、ジョアンさんが私に向かい両手をお腹に当て静かに一礼を。突然のジョアンさんの行動に、目を見開く。

「あの、ジョアンさん?」

「これからもどうか、そのままのあきな様で接してあげて下さいませ」

「え……?」

「シェリーだけでなく、レイ様にもアッシュ様――それからジン様にも対しても。変わらずそのままで」

 顔を上げたジョアンさんの表情はとても穏やか。

「そして、アディル様を支えてあげて下さい」

「支える?」

「私があきな様にお話したい事は以上です。お時間を頂きまして、ありがとうございました」

 笑みを浮かべながらジョアンさんは、テーブルへと戻り自分が使用したカップを手に持ち扉の方へと向かってしまう。

「ジョアンさん、どこへ?」

「まだお茶が残っておりますので、お二方はお茶を啜りながらでもお話でもなさって下さい。私はこれから所用がございますので」

 そう言って私達に一礼をし、足早にジョアンさんは扉の向こう側へ姿を消した。