君がいるから



「そうだと思います。ですが、良い方向へ向かったのは、アディル様のお力でした」

「――アディルさんの?」

「えぇ。ある時、只でさえ衰弱していたシェリーの姿が更に弱っていく姿を見ているのがとても辛かったんだと思います。どんなに爪を立てられ傷つけられても、抱きしめこう言ってあげていました」

『君がどんなに俺を傷つけてもかまわない。だけど、俺は決して君を傷つけたりしない』

『もう怖がることはない――君の傍にはいつだって俺達がいるよ。もう君を傷つける者はいない。母を想い、たくさん泣いてもいいんだ』

「アディルさんらしい、優しさですね」

「その言葉を聞いた途端に堰(せき)を切ったように、アディル様の胸で声を上げてシェリーは泣いたんです」

「…………」

「それから喋るようにもなった頃――ゆっくりと私がお話した事をシェリーは教えてくれたんです」

 ジョアンさんは椅子から立ち上がり、靴音を鳴らして窓際へと歩み窓外へ目を向けた。

「その頃からでしょう。アディル様にいつも付いて歩き回るようになったのは。彼女にとって、アディル様が一番の味方で信頼できるお相手なんですね」

(あ……だから、アディルを取らないでって――)

「シェリー本人が、のちに私にこうも教えてくれました」

『ラビトの種族の者達はあたしや母親を汚いモノでも見るような目をしていたんだ――次第にあの男も一緒になって』

『アディルはあたしを優しい目で見てくれた。あいつらと同じ赤い色が嫌いだって言ったら、シェリーの瞳は綺麗だって笑ってくれたんだ』

『俺と同じ赤でおそろいだって! 羽も見せたらとても可愛いって!』

「――と、とても嬉しかった思いを。その時、初めて自分の瞳と羽が好きになったと表情を輝かせて」

「シェリーは辛くて苦しくても、誰にも言えなかったんだ」

「今では元気すぎて困るぐらいですけれど」

 ふふっ――小さく笑うジョアンさんの表情はとても優しさに溢れている。和やかな空間が戻ったような気がした。

「レイ、ありがとう。もう、大丈夫」

「あっそ」

 レイの手の甲にもう一つの自分の掌を重ね伝えると、私の手からレイの手は離れていく。

「あの子は口や態度は強がってはいますが、実はとても弱い子なんです。その弱さを唯一曝け出せるのはアディル様だけ」

 甘えられるのはアディルさんだけで、彼女にとっては何よりも大切で愛おしい唯一無二の存在――。