君がいるから



 一呼吸を置き、ジョアンさんは再び語り出す。

「アディル様はシェリーが目覚めるまでの間、ずっと見守り続け、そうして、シェリーは目を覚ましました」

「…………」

「私もちょうど目を覚ます時に居合わせましたが、シェリーは私共を目にした途端、爪を立て威嚇をしてきました」

 その頃を思い出すかのように、そっと瞼を閉じるジョアンさん。私も話を聞くうちに自然と視線が下がっていく。

「……恐らく怯えていたのでしょう。母を亡くし、惨劇を目にして平常心を保っていられる者などいない筈。それも幼い子なら尚更」

 私もそうだった――ジョアンさんの言葉にまた瞬く間に残像となって現れる光景。夢の中でさえも言い知れぬものに支配されていくのに、シェリーは夢なんかではなく現実を目の当たりにしてしまった。再び拳に力を込める。
 すると、冷たいなにかに手の甲を包まれ、視線を更に下げて目にしたのは、私よりも大きな白い肌の手。それを辿って見遣った先には――レイ。未だに窓の向こう側に視線を逸らしているのに――何故震えていると分かったのだろう。でも今はレイの優しさに甘えた。

「シェリーはすぐに私共が人間だと悟り、爪を立てて飛び掛ってきましたが……アディル様がそれを制止させました。その際に頬と右腕にシェリーの爪で傷を負いました。けれど、自分の傷よりもまずは、シェリーを抱きしめてあげていました」

「アディルさん……」

「威嚇はしていたものの、体は小刻みに震えておりましたね。本当はとても怖くて怖くて仕方なかったのでしょう」

 ジョアンさんは瞼を静かに開いて、部屋の奥を見遣り懐かしむような表情へと変える。

「この部屋でシェリーの看病をしました。彼女はなかなか心を開くことはせず、毎日ずっとあの部屋の隅に膝を抱えて背中を丸めていたんです」

 ジョアンさんが指し示す方向を辿る。白いシーツが丁寧に敷かれた寝台があり、壁と寝台の間――子供1人の体が入ってしまえる間。

「私とアディル様とで、交代で食事を運ぶ度に話しかけることを心がけました。その甲斐あってか、ほんの少しずつでしたが食事も口にするようになり、声を出さずとも頷きなどで答えてくれるようになっていったんです」

「きっと……2人の懸命な想いが通じたんですね、シェリーに。自分を傷つけたりしないって分かったから」

 私がそう声を掛けたら、ジョアンさんは微笑んで答えてくれた。