少女は、茂みの中で母親を待つ間に眠ってしまい、差し込む陽の光で目を覚ました。いつもなら目が覚めると柔らかな微笑みをくれる母親がおず、少女はその母を捜し求め匂いを辿り、森の中を歩き続け――開けた場所へと出る。
そこには、もう既に人間の姿は無く、昨日まであった家屋は無残に壊され燃やされた残骸があるだけ。その傍らには、罵声や石を投げつけてきた者達の亡骸が横たわっていた。彼らラビト族は人間が作り出した兵器に匹敵する力は薄れていたと、これもまた記されている。
その現状は、幼い少女が目にするにはあまりにも残酷な光景。中には、自分と母親を助けることなく裏切った、かつて父親であった者の姿も。
この時、母もまたこの者達と同じように――幼いながらも悟ってしまったのだろう。だが、少女は声を出すことも涙を流すこともなく、現状から逸らすこともせず、辺り一面を冷めた赤い瞳に映し続けた。
少女は口に出来るものを探し拾い集め、振り返ることもなくこの地から姿を消す。
――森を裸足で歩き続ける少女。足が葉などで切れても感情を面に出すことは無く、昼間はひたすら歩き夜は肉食の獣から身を守るために木の上で過ごした。
幼い少女は何を思い、歩き続けたのか――それは誰にも知られることはない。
数日――歩き続けた、ある雨の日。森が開けた場所へ出た先、大きな城が聳え立つのを目にしたのち――少女は意識を手放してしまった。そこへ、1人の騎士が姿を現す。
傷だらけの足、雨で濡れた体は氷のように冷たく横たわった少女へ幾度と無く声を掛けた。だが、少女が目を覚ますことはなく、口から漏れるか細い呼吸に騎士は気づき、抱きかかえ急ぎ城へと連れ戻る。
数日の時が流れ、少女は衰弱しきった体を癒すように眠り続け、見守るように看病をし続けた騎士。早く目が覚めるようにと願い続ける。
* * *
ジョアンさんはそこまでで、カップを手にし静かに口をつける。私は、自身の太腿に置いた手が震えてて、それを抑えるように握り締める。
「その、騎士って――もしかして」
問いかけにジョアンさんは、カップをソーサーに戻し一つ頷く。
「アディル様でした」
しんと静まり返る空間の中に、窓を通して鳥の囀りが流れ込んでくる。自分と並んで座るレイを視線だけを動か見遣り、彼は腕を組み窓の向こう側を見つめていた。視線を戻し、ジョアンさんから語られる言葉を待つ。



