君がいるから



 コンコンッ

 自身の中で騒いでいる最中、扉を叩く音で我に返る。やんわり拘束していた腕が離れ、アディルさんは私の頭を撫でてから扉の方へ。背中を目で追いながら、眺めの溜息をこぼす。
 初めて想いを伝えたことに私自身驚きで。これからどうしたらいいのか、こんな時には、由香がいてくれたら適切にアドバイスをくれるんだろう――もう一度息を吐き出すと、アディルさんが扉の向こう側にいる人と話を終えたのか、私の元へと戻って来た。

「あきな、すまない」

「どうしたんですか?」

「朝食を一緒にと思ったんだけど、すぐに部屋を出ないといけなくなったんだ」

「全然気にしないで下さい! それに私もレイの部屋とシェヌお爺さんの手伝いに行きたいので」

 両手を左右に振り、笑みを浮かべてアディルさんに言う。すると、アディルさんは昨夜と同じように、私の頬に掌を添えて親指で私の唇を形を確かめるように滑らせてくる。

「アディルさん!?」

 口を開くこともなくただ数秒間見つめられたのち、耳元にアディルさんの唇が寄せられ――。

「寝顔、とても可愛かった。また、可愛い傍で見せてね」

 耳元を掠めていく吐息がくすぐったくて、それでいて気恥ずかしい。

「それじゃ、俺は先に出るけど。部屋の外にいる部下があきなに付き添ってくれるから」

 離れる寸前に、私の髪に触れて頭を数回撫でるアディルさん。遠ざかり支度を整えるアディルさんを、熱が上がりっぱなしのまま見送る。甘い香りが遠ざかって、扉が静かに閉まった――。






「はぁ……」

 途端、一気に脱力しそのまま座り込んで掌で頬を覆う。

「何か……疲れた」

 こんなにも、朝から心臓が激しく鳴りっぱなしの状態が無いから、疲れというか体に力が入らない。ほんの少し放心状態でのまま、何とか熱や激しい鼓動を落ち着かせようと深呼吸を繰り返す。

「緊張してるって言ってたけど……緊張してる人が、朝からこんなこと出来ないと思いますよ、アディルさん」

(本当に私1人だけなのかも……こんな……)

 全てのことがアディルさんが初めて。どうしていいのか分からないことだらけだ。言葉や行動よりも、真っ先に体が反応してしまう。

「アディルさんは……慣れてる」

 私以外の誰かにも、言ったことがあるんだろう――また1つ、生まれた感情に頭を悩ませた。