君がいるから



 柔らかなソファーで食後の体休め。数十分、互いに一言も会話を交わすこともなく、時は過ぎる。特にすることもなく、天井を仰いだり指先で遊んだり――そうして書類に目を通し終わったのか、ジンが目頭を指先で抑え、書類を束ね手に取り立ち上がる。

「俺は城や街の様子を見て回る。自由にこの部屋を使っていてかまわないから」

「ありがと。でも、もう少ししたら、私もシェヌおじいさんのお手伝いがあるし、ジョアンさん達のお手伝いとレイの様子も見に行ってくる」

「お前が何もそこまでしなくてもいい。城の者に任せれば――」

「ううん。私はここに来て、たくさんお世話にもなってる。出来る限りのことはしたい」

 私もソファーから腰を上げ、まっすぐジンを見つめ頬を緩める。

「レイとも少しずつ仲良くなっていけたらって思ってるよ」

 言葉にすると、ジンは目を細め口端を上げた。歩み出したジンは戸へと向かうかと思いきや、私との距離を縮めて、頭上に掌を乗せ、数回弾ませる。優しい眼差しと、柔らかな微笑みを浮かべて。

「俺は先に出る。お前はもう少し休んでから行くといい」

 ジンは言い残し、部屋を後にした――。同時に、足元がふらつき、ソファーの肘掛けへ咄嗟に体を預ける。トクントクン――胸が鳴るのを抑えるように掌を当てた。




 コンコンッ

 ふいに扉を叩く音に、肩が跳ねる。

 コンコンッ

「あきな様。ジョアンでございます。入ってもよろしいでしょうか?」

 再び叩かれた扉の向こうから聞こえてきた声に、慌てて応答。

「はい、どうぞ!!」

 急ぎ足で扉へ駆け寄るところで、扉が開かれジョアンさんが姿を見せた。

「あきな様にこれをお持ちしました」

「制服! どうして、これ……」

「いつもこれをお召しですよね。なるべく早く手渡してやってくれとジン様から」

「ジンが?」

「これを身につけていれば、あきな様が元の世界と繋がっていると安心なさるかもしれない。そう、仰っておられました」

(ありがとう……ジン)

「この間も繕ってくれたのに洗濯まで。何から何までありがとうございます」

「私達の役目でもありますから。それより、またシェヌ爺のお手伝いをなさるおつもりで?」

「はい! レイの所にも行こうと思ってます」

「今朝はレイ様、スープを召し上がったそうです」

 ジョアンさんはとても嬉しそうで、目尻の皺が作られる。

「すごい!」

「はい。あきな様のお陰です。ありがとうございます」

 折り目正しく一礼をするジョアンさんに慌てて両手を左右に振る。

「私は何もっ。でも本当によかったです」

 頬が自然と緩み、ジョアンさんと2人でそっと微笑み合う。