「……なっ」
予想だにしない事態に、声にならない言葉、目を大きく見開く。指先で摘まんでいる程度のものだと、後ずさって離そうとするも、指を増やし更に強く握られてしまう。寝たふりをしているなんではと、疑いの目を向けるも、規則正しい寝息を繰り返していて、布地を軽く数回引いて覗ってみるも、どうも寝たふりをしているようではないよう。そっと肩を落とし、視線を下方へ向け、握られている箇所から無数の皺が作られているのを目にする。
俺よりも小さいあきなの手に触れ、起こさないよう指を剥がそうと試みるが――。
「……んん……んー」
あきなは俺の裾を攫んだまま、体勢を変えようとしているらしく、くいくい――引かれる。動かずの俺に諦めて手を放すだろうと思っていたが、その想いは無駄だったようで、反対に寝返りを諦めたようだ。
「はぁー……」
長めのため息が口から漏れる。困窮の表情を浮べて、後頭部の髪を掻く。とりあえず、離す機会がある事を願いつつ、あきなの顔元の傍に腰を下ろす。
あきなの腕が無理のないようにしながら、ヘッドボードに背を預け、半分体を横たわらせる状態をとる。
「呑気な奴だな。いつまで人の服を握って、離さないつもりなんだか」
幸せそうに少し笑みを浮べながら眠るあきなの表情、俺は呆れた表情を浮かべるも、それはすぐに緩んでしまう。だが、暫く見据えたのち、一度口を一文字に結び、そして開く。
「お前が、もし龍の血を引いているのなら、俺たちがお前を危険に晒すことにもなるだろうな」
奴らはそれに気づき、いつ襲撃してくるのか――真っ先にあきなを狙ってくる筈。
だが、あれから時は経っている。シュヴァルツは気づいてはいないのか――否、それは考えにくい。奴が何を考え行動に移してくるのか。
思いふけっている最中。寒いのだろうか――あきなは背中を丸めブランケットの中に顔を埋めた時、衣擦れが静寂な部屋にやけに響いて聞こえる。
「あきな」
名を呼び、ふいにあきなの茶がかった柔らかな髪に触れ、指先で数回撫でる。
窓外で降り続ける雨音、室内に置かれた装飾品の時を刻むかのような音。あきなの小さな寝息。静寂の中で重なり合う音が、次第に眠りの世界へと誘われてきてしまう。
「あきな、お前には――」
続けられるはずだった言葉は、そこで途切れて瞼が重くなり始め、いつの間にか深い深い眠りへと落ちていった。



