「……仕方ないな」
肩から少し力を抜きため息交じりにそう言葉にした後、ゆっくりと自身の体を捻るように動かし、あきなの頭を掌で支える。が、その時――。
「ん……んん……」
動かした拍子にあきなの口から漏れた甘い声に、思わずその方へ目がいってしまう。気づいて逸らそうとしたが、ふと動きを止めてしまう。
長い睫、薄く桃色に色づいた――頬。少し開かれた朱唇、薄い布地の隙間から覗く白い肌。激しく打つ鼓動。自身の喉が僅かに動くのが分かった時、あきなの体が少し身じろぎ我に返る。
「な……一体、俺は今何を……」
頭を支える反対の手で口元を覆い、数秒目を伏せる。意識的にじゃないとはいえ、今傍で穏やかに寝息をたてているあきなを俺はどんな目で見ていたのか。恥ずかしさから視線を逸らす。心を落ち着かせ瞼を開く。なるべく眠りの妨げににならぬよう、あきなの背と足裏に自分の腕を通し力を込め、自分よりも小さな体を宙に浮かせる。
「以前にも、こうした事があったな」
胸元に抱き寄せ、ふと脳裏に浮かぶそう遠くない記憶。ぼそり――誰に言うわけでもなく呟く。茶がかった髪がさらりと落ち、ふわりと俺と同じ芳香を放っている。先ほどとは違う、とくん――小さく鳴った鼓動が不思議に思え、表情を緩ませる。しばらく自分の胸に頭を預ける姿を見据えた。
隣接している寝室は、燭台に立てられた蝋燭に仄かに灯っている灯のみ。長年慣れた部屋だ、灯りを頼りにせずとも足取りは弱まることはない。恐らく大人4人程が眠れる広さの寝台のスプリングが音を立てる。つい数時間前まで、自身が横になっていた寝台にあきなの体をなるべく揺らさぬよう横たわらせた。
皺一つない敷布は、自分が部屋を出ている間に侍女達が代えてくれたのだろう。ほのかに洗濯したての芳香。いつもながら、仕事が早い――と心中で告げる。
「ゆっくり、休めよ」
はらりと重力に従いあきなの前髪が再び落ち、それを指先で触れながら口にする。ブランケットを肩まで掛け、俺はその場を離れる。
くいっ――途端、引っ張られる感覚に首を傾げる。腹部辺りに感じ、その方へ視線を下げて行き着いた先で、視界に映ったもの。俺の衣服を握り締めている――細い指先。



