君がいるから



   * * *


 肩を使い、一度大きく空気を吸い込む。それに合わせて、ボスンっと高級感がある黒革のソファーに体を預ける。
 ――あれから、ジンの後を付いて行き着いた先で、有無を言わさずに今いるこの部屋に入れられ、それからバスルームに押し込まれた。着替えは持ってくるから早く入れ――そう言ったかと思えば、ジンは扉を閉めて再びどこかへ行ってしまったようだった。
 折角の行為を無碍に出来ない――っと考えた結果。ジンの言葉に甘えることにし、冷え切った体をよく温めて出て、辺りを見渡したけれど、まだジンは戻っていないよう。
 ただ、黒革のソファーの前のガラステーブルに、金の装飾がついた白のカップが一つ置かれているだけ。ぽたぽた――毛先から小さな雫が落ちているのに気づき、タオルに雫を吸い込ませながら、ふと目に留める。

「この服――ジンのなのかな?」

 全体的に大きめのTシャツに似た感触の白布地の上下、下なんて裾が長すぎて2・3回捲らなければ、床を引きずってしまう。
 肩幅も油断していると、肩からずれ落ちてしまうんじゃないかと思うくらいに、ざっくり開いた襟口。これは、男性ものなんだと確信し、少し気恥ずかしく思う。それから服を眺めている間に、ただ何気なく布地に鼻を近づけ、仄かな香りを吸い込む。

「ジンの香りに似てる、香水かな?」

 先ほどもそうだけれど、風に乗って漂ってきた香りを思い出すと同時に、そこで何故かアディルさんは甘い香りを好んでいるんだなっと瞼を閉じ思い浮かべ、あの日あの時抱きしめられた感覚が蘇る。




(って、私は何考えてんの!? これじゃ、ただの変態じゃない!!)

 熱を帯びた顔を両手で覆い、足をばたつかせ暴れる私は頭を思いっきり左右に振る。その時――。

「1人で何暴れてるんだ」

 背後――頭上から降ってきた声に、一瞬にして我に返りそーっと指の隙間から目を覗かせ、首をぐるりと動かし上方へ向けた。

「人に水を飛ばすな」

「うっわわわわっ!! ジジジジッジン!? なななっいつっ」

 突然、背後に立つジンの姿に驚きのあまり、言葉にならない変に上擦った声を上げる。頭をぶんぶん振っていたからだろう、髪に残っていた水滴が頬に付いたらしく、手の甲で拭うジン。

「髪の水滴をちゃんと拭き取れ。じゃないと、また冷えるぞ。ったく、袖に顔を埋めてるかと思えば。忙しいやつだな」

(埋めてって――み、見られてたっ)

 何故、ジンが入ってきたことに気づかなかったのか。今度からは周りに目を配る事を怠らないようにしようと、今更ながら学ぶ。

「ほらよ」

「え?」

 かくん――っと肩を落とした私の視界の端に入ってきたモノに顔を上げたら、ジンが手にしていた物に目を瞬かせた。