君がいるから



「そこにいるおっさんは副長にも関わらず、酒を呑んで1人平和にベットで夢の中」

 今度は自身の横方にいる男へと視線を注ぎ、腰に手をあて口を開いた。

「それに君は"めんどくせー"とか言いながら、誓約書の文字も読まずに"勝手にサイン"したよね? っというか……そもそも"字が読めない"んだよね、君は」

「……なっ! てめー、そんなでかい声でっ!!」

 いつもならここで食ってかかっているギルだったが、ウィリカの言葉に熱が一気に上昇し、慌てふためく姿はまるで小さな子供のようだ。おっさんとネゼクは喉を震わせ、また一口酒を含む。

「今更慌てても、こんな事は全員知っている。少しは勉強したらどうだ? "字も読めない"長って……」

 何とも情けないと、ウィリカは呆れた表情で額に掌を当てて長めのため息を吐いた。すると、ギルは頭を両手で豪快に掻き、どかり――ソファーの背凭れに思いっきり背を預けた。

「だぁー!! "字"なんて読めなくても死にゃしねーっつーんだ!!」

「でも、そのせいで僕達はめんどくさいことをするはめになってるんだけど? それについては謝罪の言葉もないわけ?」

「謝罪だ!? 俺1人の責任じゃねーだろうが!! ウィリカっ、あん時読んで聞かせりゃよかったじゃねーか」

「そのつもりでお供しましたが、俺様達にたんまり酒を飲ませろ! ただそれだけで勝手にとっととサインしたのは何処の誰なんでしょうか」

「……っい!?」

 更に顔を引きつらせ目を泳がせているギルに、ウィリカは再び盛大なため息をつく。傍らで声も出さずに笑みを浮かべる男が2人。

「こんな奴が僕たちの長とは……先行き不安でしょうがない」

「……こんな奴って、俺様の事言ってんのかよっ」

「当たり前だ。とにかく、僕達は契約上期間内はこの国の王様の命に背くことはできない」

「ちっくしょーーっ!!」

 またもや、ギルは頭をガシガシと掻き、苛立ちをそのままに勢いよく立ち上がる。すると、腰に手を当てて仁王立ちになり、窓外へと視線を向けた。

「わぁーったよ!! 俺様の責任だ。あいつらの言うこと聞いてやる! だがな」

 バシッ――左の掌に右の拳を打ち当てる音が、騒がしい中でもウィリカ達の元へと届く。

「あの野郎をぜってーぶっ潰す」

 闘志に燃えるギルの厳しい瞳は、今目に見えぬ者へと向けられている。

「この間の100倍はぜってー返してやるっ!!」

「その心意気はいいけど……腕、折れてるよな」

 雰囲気を壊すネゼクの一声に、その場の動きが一瞬止まり――。

「っ! くっそっ、こんなのいっだぐねぇ!!」

 左手に巻かれた石膏を右手で押さえ込み、苦痛で足をバタつかせて暴れるギル。そんな彼の姿にウィリカは呆れた表情――他2人はくくくっと笑いを堪える。

「馬鹿。本当にこんな奴が長でいいものか?」

「いいんじゃねーか? 馬鹿が長でもよ」

「まっその方が、楽しいじゃあーりませんかー? "目的"を果たすまでの道のりは楽しまなくちゃな」