どっこいしょ――っと彼らの傍までやってきた、酔いが回った無精髭のおっさんは、大きな酒瓶を片手で持ち上げたかと思えば、グラスに注ぐことなく酒瓶の口から直接喉へと流し込む。
「毎度ながら、あなたは豪快ですね」
「うぉっ? 何だウィリカ。全然飲んでねーじゃねーか? そんなちびちび酒飲んだって楽しめねーぜ」
「あなたの強烈な匂いと下品さが移りかねないので、それ以上寄らないで下さい。そもそも風呂、何日入ってないんだ、あなたは」
自分の傍へと尻をずって寄ってこようとするおっさんに、ウィリカは顔を背け眉間に皺を刻む。だが、そんなウィリカの言葉など聞いていないのか、にやにやと締まりのない表情でおっさんは酒瓶を床に置き、ガラステーブルに置かれたつまみを豪快に握り口へと運んだ。その行動に、より一層ウィリカの嫌悪は募る。
「しかし、俺たちはいつまでこき使われるんだかなぁ」
ネゼクが、うーん――っと上方へ腕を伸ばした後、肩をグルグルと凝りを解しながら隣に座るウィリカに問う。ウィリカは親指を立てて背後でふてくされたギルに向け言い放つ。
「今回の件は――というか、毎回の面倒事はこいつのせいだろ」
「お、何だ、何だ? ギルが何か関係してんのか~い?」
おっさんは大きな酒瓶から直接再び喉に流し込み、口端から零れた酒を手の甲で拭う。ウィリカの顳顬(こめかみ)がぴくりと動き、金の瞳に腹だしさを含ませた視線を目前にいる者達へと向けた。
「あなたは本気で言っているんですか? 全ては僕達の"馬鹿な長と万年酔いどれの副長"が原因でしょうが」
馬鹿な長――という単語を、先ほどまで1人騒いでいたギルの耳が捉え、ぎろりとその声の主へと目を向ける。
「あ!? ウィリカ、てめー……今、俺様の事言いやがったな!?」
「何だ自覚があるのか」
「喧嘩売ってやがんのか!! 俺様は胸糞わりぃんだっ、痛い目見たくなかったら取り消せ!!」
上体を起こして、今にもウィリカに飛び掛りそうな勢いのギルだが、その事に何も反応を見せないウィリカは飲みかけの酒を静かに一口含み、床にグラスを置いた。
「喧嘩を売っているつもりは無い……だが」
ウィリカは静かに立ち上がり、目を細めて金の瞳が自身の長であるギルを見下ろす。
「お前が"誓約書"の"文字"も読まずに"サイン"した事が全ての始まりだ」
ウィリカの言葉に、一瞬ギルは何の事かと睨みを利かせるが、思い当たる節に気づいたのか次第に口端が引き攣っていく。



