君がいるから



 ジンの様子に首を傾げている間に、ジンはくるりと踵を返そうとしたけれど。すぐにその行動は止まり、再びこちらへと振り返ったかと思えば、壁側へ視線を向け口を開いた。

「っと、その前に――まず、この手を離してくれないか」

 そう言われても、言葉の意味がすぐに理解出来ず、首を再び傾げた。私の頭の回転の悪さにすぐさま気づいただろうジンが、指先でくいくいと示す先を追い、行き着いた先で肩を上げた。

「ごごごごっごめんなさい!!」

 甲高い声を上げて、慌てて両手を顔の位置まで上げ両瞼を閉じた。気づかずにずっと私は、ジンの手を握りしめたままだったことに羞恥で熱がこみ上げてくる。

「ここでぐずぐずしていたら、本当に風邪を引く。とっとと、行くぞ」

「へっ……あっちょっ待って!」

 ジンの言葉に目を開いた直後、全然気にする様子もない彼は先へと1人歩廊を歩み始めていた。気づけば、あっという間に2人の間は開き始めていく。遠ざかって行こうとする背中を茫然と見ていたら、そんなに早く歩いても平気なのかと心配になるくらいの速さで。

「おいっ、置いてくぞ」

「あっごめん。今、行きます」

 ジンの掛け声に慌てて追いかけ、ジンの背後へと駆け足で辿り着くと、再び歩み始めたジンの背後を付いていく。自分の歩幅で歩いていないせいか、少し強めに感じる風が通り抜けて、冷たい制服が更に冷えて肌に張り付き震えが酷くなってくる。

「くしゅんっ」

 くしゃみの後、鼻水が啜り辛くなってきたのを感じ、これは早くこの冷たい制服を脱いで体を温めないと、本当に風邪を引いてしまいそう。皆が身体を休める時間を削っている最中、私がここで風邪を引いて寝込むわけにはいかない。更に負担をかけしてしまうのはどうしても避けたい。少しでも寒さを和らげようと、背を丸め自身を抱きしめる格好をしながら歩き続けている最中、ふと視線を上げたら、前を歩く私よりも広い背中に視線が止まる。

(男の人の手って、私の手よりも更に大きくてとても逞しい)

 小さい時、父さんと手を繋いだ時に思った感覚を思い出す。組んだ腕の中から自分の掌を広げ見て、優しい温もりを思い出して頬が自然と緩んだ。

(――あれ? でも)

 その時と何かが違うと、ふと疑問が生まれる。父さんとジンだから――同じ手ではないというのは当たり前の事で。でも、一体何が違うのかと、1人頭の中に疑問符を並べ続け、歩廊を歩み続けた。
 ――その頃、ある一室で。