君がいるから



「すごいって……何がですか?」

 美味しそうな匂が漂う空間、お鍋から立ち上る温かな湯気。メイドさんが大きな鍋の中を大きな木べらでかき混ぜながら、応える。

「私共がどんなにお願いしても、一口も食べてもらえませんでしたのに。本当にすごいです」

「……レイのことですか?」

「はい。スープだけでしたが、召し上がって頂けて本当に嬉しかったんですよっ」

 メイドさんは心から嬉しいっていう感情を表情に現わし、頬を赤らめた。

「私もホッとしました。やっと食べてくれたって感じで」

「お聞きしてもよろしいですか? どうやってレイ様をご説得されたんですか? 今後の参考にぜひ知っておきたいですわ」

「えっ? えっと、どう、やって……って、どうしてだっけ?」

(あれ……? 本当にどうしてだろう?)

 あの後、私はうたた寝しちゃっていた。そしたら、おでこ辺りに何やら、鈍い痛みが何度も何度も襲ってくるもんだから、ハッと目が覚めて最初に見た光景は、レイのむすっとした不機嫌な顔で。その後、突然浴びせられた言葉はというと――。

「人のベットで勝手に寝るな、阿保」

「お前何しに来たんだ。ただ人の部屋に寝に来ただけの阿保か」

 目覚めの悪い言葉の数々、その他にもいろいろと言われ続けた。

(いや……たしかに寝ちゃった私は悪いとは思う――思うけど。何もそこまで言わなくても)

 がっくり肩を落としていたら、カチャッと音がして顔を上げた。いつの間にかベット近くにある小さなテーブルに移動し、そこに置かれた白いスープ皿からスプーンで掬い上げて口元に運ぶレイ。よく分からない状況に、その場で瞬きを繰り返しながらレイを見つめる。
 どうして食べてくれたのか――聞いてみようかと思ってはみたものの。聞く前に、早く皿持って出てって――なんて言われてしまい。

(でもまぁ……食べてくれたんだし、よしとしよう!)

「あきな様?」

「えっあっすいません! 私も何故だかよく分からないんです。いつの間にかレイはスープを口に運んでいて」

「そうでしたか。あ……っと、そろそろお部屋に戻られてた方が良いですよ」

「そう、ですね」

「今夜は少し雨で気温が下がりそうなので、温かくしてお休み下さい」

 メイドさんのにっこり笑む姿を見て、私は彼女たちの言葉に甘えることにし、一度礼をして厨房を後にした。