君がいるから



   * * *


 カチャ カチャカチャッ

「これは、この食器棚でいいですか?」

 数枚のお皿を手に持ち、傍にいるメイドさんへ声を掛け、行く先を示し問う。

「はい。5段目の棚にしまって頂ければ大丈夫です」

「了解しました」

 棚の前に置いてある台を使い、言われた場所へお皿をしまう。

「よしっ完了」

 ふぅ――息を吐いた後に、台から降りると同時に自分の名が背後から呼ばれる。

「あきな様」

「あっはい」

「もうここは人手は足りてますので、お部屋で休んで下さいな」

 置き場所を教えてくれたメイドさんが、にっこり笑顔を作りそう勧めてくれた。けれど、頭を左右に振り応える。

「私は大丈夫です! これから騎士さんたちの夕食の時間ですよね? だったら人手は多い方が」

「お気遣いありがとうございます。あきな様のおかげで大分片付いてきました。しかし、ジョアン副長にそう伝えてほしいと言い付けられておりますので」

「ジョアンさんに、ですか?」

「はい。あきな様は必ずこちらへお手伝いにいらっしゃるだろうから、この仕事が一段落したら必ずそう伝えるようにと強く私は言われておりまして」

(そっか。でも、そう言われても私だけのんびり休むわけには……いかないよ。皆それぞれ、たくさんの事に追われて、眠れぬ日を過ごしているんだし)

「それから、今日はもうお夕食の時間が終わったら、作業はしないそうなんです。私達も後片付けが終われば休むことになっているので、あきな様もどうぞゆっくり体を休めて下さいまし」

 夜中まで続く作業をする騎士さん達や皆に、メイドさん達は夜食を作り差し入れをしていた。

「今夜は雨が酷くなりそうなので。それで、急きょ一時中断することにしたんです。本当は雨漏りが酷い箇所もあるみたいですが、応急処置をして、それから少し皆さんを休ませてあげたいとアッシュ様達がそうおしゃってくれたので、甘えることにしました」

(雨……か)

 ふと左方に視線を移すと、窓硝子に無数の水滴が付き滴り落ちている。窓を開けて確かめるまでもなく、激しく降る音が私の耳にまで届いていた。

「それにしても、あきな様はすごいですね」

 窓外に向けていた視線を、くるりと戻す。夕食の支度をしながらニコニコと笑みを浮かべているメイドさんの表情に首を傾げた。