君がいるから



「ハウィー。お前のもう1つの疑問に答えよう」

「へぇ~、教えてくれるんだ」

「エグザとあの男を会わせる必要があった」

「あの男って誰のことさ。もっと分かりやすく説明してもらえますかぁ? ぜんっぜん、疑問に答えてないように思えるけど?」

 ガシガシッと頭を掻くハウィーの横で、エグザはすっと視線を上げた。何か想いを秘めた彼の両の瞳が、シュヴァルツの背を映す。

「全て我の思想通りに――順調に事は運んでいる」

 シュヴァルツがそう言い終え、ハウィーが何かを思い出したのか、声を上げ突然立ち上がる。

「そーいえば……あんたに言われた"モノ"持ってきてないけど? それ奪う前に帰還命令がこいつから出たから」

 両手を広げひらひら――と振り、親指を立て隣の男へ向けた。シュヴァルツは微かに鼻で笑い、シュヴァルツの瞳に秘められたものを誰も知る由もない。
 窓外に雲海が限りなく広がる。そして、その真上には夜の闇に一際妖しく存在を表しているのは――巨大な紅い月。

「まだ――まだだ。あの男の傍に置いておくことにしようではないか。そうして――」

(序曲にしかすぎないぞ、ジン=ルード=シャルネイ。全てはこれから。もっと――もっと――。我の手の中へ来る、その日まで。束の間の時間を楽しんでおくがよい)

 掌をゆっくりと閉じながら、口端を上げて赤い月を見据え続ける。

「その様子だと。まだまだ、楽しめることありそうだね~。あー……ゾクゾクしてきて、たまらないよ」

 クククッ――薄笑う銀の瞳を持つ者。赤く腫れあがった拳に力を込め、横目で銀髪を鋭い眼光で見つめる者。そして、背後で静かに立ち去る1つの影に、誰1人として気に止める者はいなかった――。